ほとんどの理系大学生は学部4年生なりますと研究室に所属することになります。
そして、その所属する研究室を学部3年次に選びます。
この研究室選びは、その後の人生を大きく左右するものです。
そこで僕自身の経験を元に、何を基準に研究室選びをすればよいかをまとめてみようと思います。
まず、最初に言っておきたいこととして、研究室の選び方に「正解」はありません。
なので、ここでオススメする選び方があなたに合わないこともあります。
自分に合わないと思ったら、無理して参考にする必要はなく、自分なりの選び方で選ぶことを勧めます。
そのほうが将来、自分の選択に納得しながら行動できると思いますので。
特に「研究をなるべく行わずに卒業する」ことを目標にしている人には向いていない選び方です。
あくまで「ほんの少しでも研究に興味があって、ちょっとくらいは真面目に研究してみようかな」以上のことを思っている人向けの選び方です。
研究室選びの基準
まず研究室選びをする上で、多くの人は何を基準に選べばよいのか悩むのではと思います。
そこでまずは代表的な”基準”についてお話します。
研究室選びの代表的な”基準”には以下の6つがあります。
- 研究内容
- 研究成果
- 指導教員との相性
- 研究室の雰囲気
- 研究室の資金
- コアタイム
多くの学生は、通常この6つの基準を元にどの研究室がいいか選ぶことになるかと思います。
各基準について少し細かく説明します。
研究内容
文字通り、研究室が取り組んでいる研究のことです。
基本的に指導教員(教授や准教授)の専門分野になります。
なので、流体系の研究室がロボット機構の研究を行うということは基本的にはありません。
もしロボットの研究がしたければ、基本的にロボット系の研究室に行く必要があります。
ここでなぜ“基本的に”という言葉を使っているかなのですが、指導教員の専門と異なる分野の研究はやろうと思えばできなくはないからです。
(ただ実際はほぼ無理ゲーです)
実はかく言う僕も、ソフトウェア専門の研究室に行きながらハードウェア関連の研究を行っていました。
これが可能だった理由は、指導教員の先生が共同研究先を紹介してくれたからです。
他にも研究資金の問題などにより、通常は指導教員の専門と異なる分野の研究を行うことは難しいです。
研究成果
研究室によって、学生1人あたりの学会発表の回数や論文の投稿数は大きく変わります。
もちろん一概に学会での発表回数などが多いからと言って、その研究室が優秀であるとは言えません。
しかし、学会等での発表回数が多いということは、その分学生が成長できる機会が多いということでもあるので、その点は意識したほうが良いかと思います。
そして当たり前のことですが、研究成果が多いということはそれだけ大変であるということです。
また、発表をよくさせる研究室の学生は、常に締め切りに追われているため、相当なプレッシャーがかかります。
このプレッシャーにやられて、研究室に来なくなる学生を何人も見ています。
あと半年で卒業できるのに、研究室に来れなくなり、結果卒業できなかったという学生もいるくらいです。
なので、「研究成果が多い研究室だから自分もそこに行けば結果を残せるはずだ」という安易な考え方で選ぶのは、かなりリスクがあるなと思っています。
ただ一方で、「学会発表や論文投稿を学生に多くやらせる」研究室は「優秀な学生が多い(優秀になる)」というのも事実だと思います。
指導教員との相性
こちらもとても重要になってきます。
実際に友人の中には、指導教員と上手く行かず研究室に行くことができなくなり、学部留年した後に研究室を変えた人がいました。
もちろん、完璧に相性の合う友人に巡り合うことが難しいように、完璧な相性の指導教員に巡り合うことは難しいです。
なので、ある程度の妥協は必要になってきます。
また、指導教員との相性は実際に研究室生活を始めるまでわかりません。
授業で見せている教員の顔と研究での顔が異なることは往々にしてあります。
なので運要素が強いと言われればその通りなのですが、最低限できるフィルタリングとして、授業後に質問し、その対応から教員の人となりを見ることは大切です。
僕自身、友人らと一緒に授業後に教員を捕まえて、授業内容の質問や先生方の研究テーマについて聞いたりしていました。
研究室の雰囲気
後々またお話しますが、この「研究室の雰囲気」は僕自身が最も重要視すべきと考える要素です。
それほど重要なものです。
研究生活を送るとわかってくることなのですが、全ての研究室にはその研究室独特の雰囲気があります。
そしてその雰囲気が自分に合うかどうかで、研究生活の質が大きく左右されるのです。
研究室の雰囲気とはその場にいる人たちが作り上げるものであり、いわば研究室メンバーとの相性がわかる指標。
馴染めない研究室や研究室メンバーで過ごす3年間(人によっては1年間)は地獄ですよ。
研究室のメンバーに合わないために、毎日夜に研究室に来て、朝に帰るなんて人もいるくらいなので。
研究室の資金
「お金の余裕は心の余裕」とはよく言ったもので、これは研究室にも当てはまります。
研究には何かとお金がかかります。
数年に一度は買い替えが必要なPCやディスプレイの資金を捻出する必要がありますし、材料費だってバカになりません。
ちょっとしたアルミ板でも、数千円するのです。
僕の出身大学である電気通信大学は国立大学でしたが、その研究室でも学生1人あたりに支給される研究費は年間、学部生であれば7万円、修士であれば10万円程度でした。(現在は経営状態の悪化により減額されそうだという話を聞いたことがあります。)
また私の共同研究先であった私立大学の場合は、学部生で2万円とのことです。(修士はわかりません)
このように国立大学でさえこのような状況でして、まともな研究をするためには、指導教員が企業や日本学術振興会など外部から資金を調達しているかが重要になります。
僕は研究選びの際に、資金の有無について直接教員の方に確認していました。
また、たまに教員の方と研究費の話をしていると「あの研究室はお金がないよ」とかの話も聞けたりするので、研究室選びの際にとても参考になりました。
コアタイム
コアタイムとは、その時間内は必ず研究室で作業しなければならない時間のことです。
研究室によっては9時~17時であったり、13時~17時であったり、なかにはコアタイムなしというところもあります。
このコアタイムの良いところは、「その時間内であれば研究室の先輩が必ずいるため質問がしやすい」ことや「研究室へ来ることが強制されるため規則正しい生活になる」ことなどがあります。
一方で悪いところは、「自分の都合で動くことが難しい」ことや「いい年齢になっても他人からマネジメントされる」ことなどがあります。
これは人によって、縛られているほうが良い人と、縛られたくない人の2通りに分かれるため、自分のあった方を選択したほうがいいかなと思います。
ちなみに僕のいた研究室は、週1のミーティングは参加必須(事由によっては不参加OK)でしたが、基本的にコアタイムはなしでした。
以上が、研究室選びの際に主な基準となるものです。
これらを考慮したうえで研究室を選ぶわけですが、これらの基準を完璧に満たす研究室はなかなか存在しません。
またたとえあったとしても、その研究室は応募殺到するはずなので入るのは難しいです。
そこで、ここからは僕なりの研究室選びのコツをお話します。
研究室選びのコツ
研究室選びのコツは、「“直感に従い”、「消去法」と「加点法」により研究室を選べ!」です。
“直感に従い”と言う理由は、「これを基準に考えるとこっちの研究室のほうがいいな」という風に考えていると、研究生活を通して”鬱になる”などなんだかんだ失敗するからです。
案外、心の中では「この研究室がいい!」と思っているのに、色々難しく考えてしまい、決めかねるという事態に落ちやすかったりします。
心に素直になりましょう!
そっちのほうがなんだかんだ上手くという忠告を込めて、”直感に従い”という言葉を使っています。
また、ここで言う消去法とは「絶対にいかない研究室を選び排除する」ことであり、加点法とは「より自分が行きたい研究室を見極める」ことです。
そしてこれら「消去法」と「加点法」どちらを行うにしても必要となるのが、先ほどお話した基準に優先順位を付けることでして、
このとき僕がオススメする優先順位は
① 研究室の雰囲気
② 研究内容
③ 指導教員との相性
④ 研究室の資金
⑤ 研究成果
⑥ コアタイム
です。
評価基準の優先順位
① 研究室の雰囲気
先ほど述べたように研究室を選ぶ際に最も重要視する基準になります。
この雰囲気は、研究室見学の際に直感で感じることができます。
そしてこの研究室見学の際に「この研究室はなんとなく合わないな」と思った時点で、その研究室は間違いなくあなたに合いません。
なので「この研究室なら所属してもいいかな」と思える研究室を探します。
ここでの注意点として、
「この研究室の雰囲気最高!」ってところも見つけようと頑張るのではなく、あくまで「絶対自分に合わない研究室を候補から排除する」ということに注力しましょう。
② 研究内容
これも①と同様で、苦手意識などにより「絶対にやりたくない研究」という研究分野が人それぞれあるはずです。
それは直感でわかっていると思います。
僕の場合は、流体などの計算ゴリゴリ系の分野でした。
このような自分がどうしてもやりたくない分野の研究室は避けましょう。
その分野を好きになるまでに多大な労力を使うでしょうし、好きになれない可能性も高いですので。
③ 指導教員との相性
これについては、先ほども述べたように研究生活が始まるまで本当にわからないことなのですが、
それでも授業後の質問や研究室見学の際に研究テーマについて何度かお話を伺うと「ああ、なんとなくこの先生のことは好きになれない気がする」と直感で感じることがあります。
そのように感じた時点で、その先生とは馬が合わないので、その研究室は避けましょう。
④ 研究室の資金
これも重要な要素ではありますが、①②③に比べれば重要度は下がります。
というのも①②③は、”心”を壊さないで研究生活を送るために必須な基準であり、研究費はなくても生きていけるからです。
ただ研究費はあるに越したことはないですし、あればあるだけ優位であることは間違いないので、①②③の次に来ます。
⑤ 研究成果
この⑤の優先順位としては④と同じくらいです。
何度も言いますが、「心を壊さないこと」が何よりも重要なので、その点で優先順位は下がります。
また僕自身の経験から言えることなのですが、
「自分が成長できる環境か」の指標としてこの「研究成果」を参考にする人がいますが、そのような人はこの基準を最優先して研究室を決めると心を壊す可能性が高いので、特に注意したほうがいいです。
⑥ コアタイム
これは正直結構どうでもよいです。
というのも、コアタイムにはメリット・デメリットの両方が存在しますが、
①②③がある程度満たされている場合、特に①が満たされている場合は、メリットの側面が強くなるからです。
自分の経験から先輩後輩に限らず気の置ける研究室メンバーと研究していると、自然と一緒にいるのが楽しくなり、なにかと研究室にいる時間が長くなります。
結果、自然とコアタイムの時間よりも長く研究室にいることになったりするものです。
以上の優先順位を元に「消去法」と「加算法」で研究室を吟味していきます。
消去法
先ほどの優先順位を元にして、まずは「消去法」により研究室を絞ります。
「消去法」では「① 研究室の雰囲気」「② 研究内容」「③ 指導教員との相性」を元に、もし自分が行ったら”鬱”などによって自分が壊れてしまう可能性の高い研究室を選び排除します。
この「絶対に行かない研究室を選ぶ」ことがとても大切です。
正直、研究はやりはじめると楽しくなる側面があります。
しかし、そもそも楽しくなる土壌を育てることができない研究室(自分に合わない研究室)を選んでしまうと、研究の全て苦になってしまいます。
また研究室選びでは応募者が多い場合、授業の成績や指導教員との面接などで決まる場合もあります。
そのため、必ずしも一番行きたい研究室に行けるわけではありません。
そこで、第二候補、第三候補を考えておくためにも、この「消去法」によって「とりあえず行っても良いかな」と思える研究室を限定しておくことは大切です。
加点法
消去法により残った「とりあえず行ってもいいかな」と思える研究室がわかったら、そこから①②③④⑤⑥を使った「加点法」により自分の行きたい研究室を見つけていきます。
「加点法」というと実際に点数をつけると思ってしまうかと思いますが、そのような意味で使っているのではなく、あくまで長所を積み上げていき、その結果から最終的に研究室を決めようという意味で用いています。
このとき重要視すべきは「① 研究室の雰囲気」「④ 研究室の資金」です。
ではなぜ「② 研究内容」「③ 指導教員の相性」の優先度を下げたかについてですが、
「② 研究内容」については、すでに絶対にやりたくない研究を排除したあとですので、「とりあえずやってもいいかな」くらいの研究が残っているかと思います。
ここで大切な視点として、「研究はやり始めてみるとちょっとは好きになる」ということがあります。
絶対にやりたくない研究を好きになることは難しいですが、やっても良いかなくらいに思えている研究ではおそらくやっているうちに研究が少しくらいは好きになっていきます。
なので、加点法の際にはそこまで気にしなくていいのです。
もちろんやりたい研究であればあるほどモチベーションが上がることなどもあるので、よりやりたい研究を選ぶことが良いことには変わりはありません。
なので研究テーマに応じて選ぶ研究室の優先度を上げていくことは良いと思います。
次に「③ 指導教員との相性」については、「第一印象で絶対に合わない教員を排除した」後では、この基準を元にこれ以上教員との相性を計ることは難しいからです。
研究生活を始めてみないことには、これ以上評価の仕様がありません。
一方で「① 研究室の雰囲気」と「④ 研究室の資金」については、よく考える必要があります。
特に「① 研究室の雰囲気」については、「研究室の雰囲気が絶対自分に合う!」と強く思えた研究室があれば、それはかなり高得点です。
なんならもうその研究室に行くことをを決めてしまってもいいかもしれません。それくらい重要視して良いということです。
次に「④ 研究室の資金」については、研究室の雰囲気にあまり差異がなかった場合に重要になります。
研究資金の充実度は、研究成果の質に関わってきます。
研究成果の質が高ければ、その後の就職や研究人生にプラスの影響を与えてくれますので、その意味でやはり資金は重要なのです。
ちなみに純粋に研究費が多いかどうかより、その研究分野に見合った研究費かどうかが重要です。
(これが僕が研究費という言葉ではなく研究資金と言っている理由です。)
例えば、ハードウェア関連の研究室では年1000万円はすぐに消えてしまいますが、ソフトウェア関連の研究室では年500万円もあれば十分であることが多いのです。
これは僕自身が両方のタイプの研究室を経験したからこそ言えることだと思います。
「⑤ 研究成果」に関しては、先ほども述べたようにこれを最優先に研究室を選ぶと自分自身を滅ぼす可能性があるので、優先度を下げています。
「⑥ コアタイム」については、どうしてもコアタイムが無理って人以外あまり気にしなくていいかと思います。①~⑤で差異がなければ使うくらいの基準になります。
まとめ
“直観に従い”、「消去法」と「加点法」により研究室を選ぶ
というのが、僕のオススメする研究室の選び方です。
この方法で選んでいれば、「研究が大変だー(泣)」ということはあれど、基本的に「人生失敗した」と感じることはないかと思います。
また他の基準を考慮して、研究室を選ぶ人もいるかと思います。
ただどんなに基準が追加されたとしても①の「研究室の雰囲気」が最優先されるというのは主張しておきたいところです。
その理由は、「研究室の雰囲気」が自分にあっていれば、たとえ研究テーマや指導教員に不満があったとしても、大概の場合は乗り越えられるからです。
この点だけは最後に”強調”し、このエントリーを終えたいと思います。
もし質問等がありましたら、ツイッターにてご連絡ください。